一宮(いちのみや)

全国を代表する社格:一宮(いちのみや)

二十二社ともう一つ、代表的な社格として設けられたのが、一宮制度と呼ばれるものです。
これは、方向性として、二十二社とは異なり、全国一律となり、どちらかと言えば、官社制度に近いものとなります。しかし、実際には、その成立年代から選定根拠まで非常に謎が多い為、解釈が非常に難しい社格となります。具体的には、当時の令制国、66カ国の中より、地域ごとに最も格式の高い神社を示したものになるのですが、地域によっては、二宮、三宮へと続くところも存在します。傾向としては、ご祭神に、国津神系の神を祀る神社が多く、これは、いわゆる地主神との連携によって、地域民衆との結びつきを高めることを目的にしたのではないかとの憶測もできるが、基本、全ては式内社から選定されています。

一宮

一宮(いちのみや)とは、ある地域の中で最も社格の高いとされる神社のことです。一の宮・一之宮などとも書きます。通常は単に「一宮」といった場合は、かつての令制国(旧国)の一宮を指すことが多く、一宮の次に社格が高い神社を二宮、さらにその次を三宮のように呼び、更に一部の国では四宮以下が定められていた事例もあります。平安時代後期から、地方より始まり、やがて畿内でも定められました。明確な規定はなく神社の盛衰によるため時代によって異なります。吉井良隆著『「一宮」の選定とその背景』では、選定基準を規定した文献資料はありませんが、一宮には次のような一定の形式があるとしています。

  • 原則的に令制国1国あたり1社を建前にした。
  • 祭神には国津神系統の神が多く、開拓神として土地と深いつながりを持っており、地元民衆の篤い崇敬対象の神社から選定されたことを予測できる。
  • 全て『延喜式神名帳』の式内社の中から選定された1社であるが、必ずしも名神大社に限られていない。(異説あり。後述の「変遷と争い」を参照。)
  • 必ずしも神位の高きによらないで、小社もこれに与かっている。

律令制において国司は任国内の諸社に神拝すると定められており、通説によると一宮の起源は国司が巡拝する神社の順番にあると言われています。律令制崩壊の後も、その地域の第一の神社として一宮などの名称は使われ続けました。

現在ではすべての神社は平等とされますが、かつて一宮とされた神社のほとんどが「△△国一宮」を名乗っています。また、全ての一宮が加盟しているわけではないですが、これら過去に一宮とされた神社は「全国一の宮会」を結成しています。

起源

江戸時代後期の国学者である伴信友(ばん のぶとも)は、天保8年(1837年)の著書 『神社私考』の中で、「一宮を定めた事は信頼できる古書類には見えず、いつの時代に何の理由で定めたか詳しく分からない」と前置きした上で、「『延喜式神名帳』が定められた後の時代に神祇官あるいは国司などより諸国の神社へ移送布告などを伝達する神社を予め各国に1社定め、国内諸社への伝達および諸社からの執達をその神社に行わせたのではないか。また、それらの神社は便宜にまかせ、あるいは時勢によるなどして定められた新式ではないか」と考察しながらも、伴信友は自説に対して「なほよく尋考ふべし」と書き添えました。

現在、一宮の起源は「国司が任国内の諸社に巡拝する順番にある」とするのが通説になっています。それは、『朝野群載 巻22』に所収された「国務条々事」には国司が任国でなすべき諸行事や為政の心得が42箇条に渡って記されていますが、この中に「神拝後択吉日時、初行政事、云々」、「択吉日始行交替政事、択拝之後、擇吉日、可始行之由牒送、云々」と言う条文があり、「国司は赴任すると管内の主要神社へ参拝し、それら神社に幣を奉るのが最初の執務である」とされていました。この国司初任神拝は、同じ『朝野群載 巻22』に所収された「但馬初度国司庁宣」や「加賀初任国司庁宣」にも見ることが出来ます。

成立時期

通説では11世紀から12世紀にかけて成立したとされています。文献上における「一宮」称号の初見は、12世紀前半に成立したとされる『今昔物語』に書かれた「今ハ昔シ周防ノ国ノ一宮ニ、玉祖ノ大明神ト申ス神在ス」の記述と言われています。

また、大治2年(1127年)進奏の『金葉和歌集』に見える「能因に歌よみて一宮にまゐらせて雨祈れと申ければ」との記述や、大正4年(1915年)に伯耆国一宮である倭文神社の経塚より発掘された康和5年(1103年)在銘の経筒に「山陰道伯耆国河村東郷御坐一宮大明神」の銘文があるなど、12世紀頃より文献・文書・物品に一宮の称号が入ったものが見え始めることから、前述のように10世紀から11世紀の国司神拝を起源として12世紀に確立したのではないか、とするのが通説になっています。

二宮、三宮

二宮、三宮の起源も国司の神拝順とする説がありますが、『時範記』に国内をぐるりと一周してくる国司神拝順路が記述されている因幡国では二宮が不詳です。それとは逆に九宮まである上野国では、地図上で一宮から九宮までを順番に線で結ぶと同じ道を行き来することになり、国司神拝の順路として変ではないかとの指摘もあります。

また、諸国における国司神拝を取り巻く状況も様々で、『中右記』の保延元年(1135年)5月6日の条には、大和国司が下向神拝を拒否され、しかも大和国では国司神拝はこれまでも行われていなかったとの記述がなされています。また、井上寛司著『中世長門国一宮制の構造と特質』によれば、長門国では一宮と二宮を対等な存在と認めて、両社をセットとする新たな一宮体制づくりが進められたとし、その他にも能登国が一宮と二宮しかないこと、摂津住吉大社や出雲杵築大社などでは国の鎮守が一つに限られていて「一宮」呼称がないことを挙げています。(松江市八雲町の熊野大社と出雲市大社町の出雲大社をともに一宮とし、佐太神社を二宮としています。古代には熊野大社の方が上位で一宮とされていたが、中世に逆転し、出雲大社が一宮とされるようになりました。

二宮以下は存在しないとみられるが、佐太神社(松江市鹿島町佐陀宮内)を二宮とする説がある。また但馬国でも中世においては出石神社と粟鹿神社がともに一宮であったが、二宮 粟鹿神社、三宮 養父神社とされた時期もある。)

このように多様な国内事情から二宮・三宮の成立状況は諸国で異なっており、後掲の「一宮の一覧」においても二宮以下が「不詳」あるいは「ない」国がいくつかあります。

ただし、現在においては、当時の一宮を厳密に指定する文献などに恵まれていないことから、地域によっては、その一宮を示す神社に対して、複数の神社が名乗りを上げている場所もあります(これら推論に仮定される神社のことを論社と言います)。この場合、論社が定まらないがために、複数の自称一宮が乱立している状況になっております。

諸国一宮

各国で一宮を名乗り、かつそれが広く認められている神社。複数ある場合は全て列挙。

「式内」は式内社(名神=名神大社)、「近代」は近代社格制度の社格(官大=官幣大社、国中=国幣中社)、「別表」は別表神社・単立神社の別。「一宮会」は全国一の宮会の加盟社。史料の「諸国」は『諸国一宮神名帳』(1375年以前成立)を、「大日本」は『大日本国一宮記』(16世紀頃成立)の所載を表す。

国名社名所在地社格史料一宮会二宮以下
式内近代別表その他諸国大日本
畿内
山城国
(2社で1社)
賀茂別雷神社京都府京都市北区名神官大別表二十二社・勅祭社
賀茂御祖神社京都府京都市左京区名神官大別表二十二社・勅祭社
摂津国住吉大社大阪府大阪市住吉区名神官大別表二十二社
坐摩神社大阪府大阪市中央区大社官中別表
大和国大神神社奈良県桜井市名神官大別表二十二社
和泉国大鳥大社大阪府堺市西区名神官大別表二宮 泉穴師神社
三宮 聖神社
四宮 積川神社
五宮 日根神社
河内国枚岡神社大阪府東大阪市名神官大別表二宮 恩智神社
東海道
伊賀国敢国神社三重県伊賀市大社国中別表二宮 小宮神社
三宮 波多岐神社
伊勢国椿大神社三重県鈴鹿市小社県社別表二宮 多度大社
都波岐神社三重県鈴鹿市小社県社
志摩国伊雑宮三重県志摩市大社神宮
別宮
真清田
伊射波神社三重県鳥羽市大社無格
尾張国真清田神社愛知県一宮市名神国中別表二宮 大縣神社
三宮 熱田神宮
大神神社愛知県一宮市名神郷社
三河国砥鹿神社愛知県豊川市小社国小別表二宮 知立神社
三宮 猿投神社
四宮 石巻神社
遠江国小国神社静岡県周智郡森町小社国小別表二宮 鹿苑神社/二宮神社
事任八幡宮静岡県掛川市小社県社
駿河国富士山本宮浅間大社静岡県富士宮市名神官大別表二宮 豊積神社
三宮 御穂神社
伊豆国三嶋大社静岡県三島市名神官大別表二宮 若宮神社
三宮 浅間神社
四宮 廣瀬神社
甲斐国浅間神社山梨県笛吹市名神国中別表二宮 美和神社
三宮 玉諸神社
四宮 甲斐奈神社
相模国寒川神社神奈川県高座郡寒川町名神国中別表二宮 川勾神社
三宮 比々多神社
四宮 前鳥神社
鶴岡八幡宮神奈川県鎌倉市国中別表
武蔵国氷川神社埼玉県さいたま市大宮区名神官大別表勅祭社二宮 二宮神社/金鑚神社
三宮 氷川神社
四宮 秩父神社
五宮 金鑚神社
六宮 杉山神社
氷川女体神社埼玉県さいたま市緑区小社郷社
小野神社東京都多摩市小社郷社
安房国安房神社千葉県館山市名神官大別表二宮 洲宮神社
洲崎神社千葉県館山市大社県社
上総国玉前神社千葉県長生郡一宮町名神国中別表二宮 橘樹神社
三宮 三之宮神社
下総国香取神宮千葉県香取市名神官大別表勅祭社二宮 玉崎神社/二宮神社
常陸国鹿島神宮茨城県鹿嶋市名神官大別表勅祭社二宮 静神社
三宮 吉田神社
東山道
近江国建部大社滋賀県大津市名神官大別表二宮 日吉大社
三宮 多賀大社/御上神社
美濃国南宮大社岐阜県不破郡垂井町名神国大別表二宮 伊富岐神社/大領神社
三宮 多岐神社/伊奈波神社
飛騨国飛騨一宮水無神社岐阜県高山市小社国小別表二宮 久津八幡宮
信濃国諏訪大社長野県諏訪市・茅野市
諏訪郡下諏訪町
名神官大別表二宮 小野神社/矢彦神社
三宮 沙田神社/穂高神社
上野国一之宮貫前神社群馬県富岡市名神国中別表二宮 赤城神社
三宮 伊香保神社
以下 十二宮まで
下野国宇都宮二荒山神社栃木県宇都宮市名神国中別表
日光二荒山神社栃木県日光市名神国中別表
陸奥国鹽竈神社宮城県塩竈市式外国中別表二宮 伊佐須美神社
都都古和気神社福島県東白川郡棚倉町名神国中別表
都都古別神社福島県東白川郡棚倉町名神国中別表
石都々古和気神社福島県石川郡石川町小社郷社
出羽国鳥海山大物忌神社山形県飽海郡遊佐町名神国中別表二宮 城輪神社
三宮 小物忌神社
北陸道
若狭国若狭彦神社福井県小浜市名神国中別表二宮 若狭姫神社
越前国氣比神宮福井県敦賀市名神官大別表二宮 劔神社
加賀国白山比咩神社石川県白山市小社国中別表二宮 菅生石部神社
能登国気多大社石川県羽咋市名神国大単立二宮 伊須流岐比古神社/天日陰比咩神社
越中国射水神社富山県高岡市名神国中別表
気多神社富山県高岡市名神県社
高瀬神社富山県南砺市小社国小別表
雄山神社富山県中新川郡立山町小社国小別表
越後国彌彦神社新潟県西蒲原郡弥彦村名神国中別表宣現二宮 物部神社/魚沼神社
居多神社新潟県上越市小社県社
天津神社新潟県糸魚川市小社県社
佐渡国度津神社新潟県佐渡市小社国小別表二宮 大目神社
三宮 引田部神社
山陰道
丹波国出雲大神宮京都府亀岡市名神国中単立
丹後国籠神社京都府宮津市名神国中別表二宮 大宮売神社
但馬国出石神社兵庫県豊岡市名神大国中別表二宮 粟鹿神社

三宮 養父神社

粟鹿神社 名神大
因幡国宇倍神社鳥取県鳥取市名神国中別表二宮 大江神社
伯耆国倭文神社鳥取県東伯郡湯梨浜町小社国小別表二宮 大神山神社
三宮 倭文神社(倉吉市)
出雲国出雲大社島根県出雲市名神官大別表二宮 佐太神社
熊野大社島根県松江市名神国大別表
石見国物部神社島根県大田市小社国小別表二宮 多鳩神社
三宮 大祭天石門彦神社/天津神社
隠岐国水若酢神社島根県隠岐郡隠岐の島町名神国中別表
由良比女神社島根県隠岐郡西ノ島町名神村社
山陽道
播磨国伊和神社兵庫県宍粟市名神国中別表二宮 荒田神社
三宮 住吉神社
四宮 白国神社
五宮 高岳神社
美作国中山神社岡山県津山市名神国中別表二宮 高野神社
備前国吉備津彦神社岡山県岡山市北区国小別表(吉備津宮)(吉備津宮)二宮 安仁神社
石上布都魂神社岡山県赤磐市小社郷社
安仁神社岡山県岡山市東区名神国中別表
備中国吉備津神社岡山県岡山市北区名神官中別表二宮 皷神社
備後国吉備津神社広島県福山市国小別表(吉備津宮)(吉備津宮)二宮 二宮神社
素盞嗚神社広島県福山市小社県社
安芸国厳島神社広島県廿日市市名神官中別表二宮 速谷神社
周防国玉祖神社山口県防府市小社国中別表二宮 出雲神社
三宮 仁壁神社
四宮 赤田神社
五宮 朝田神社
長門国住吉神社山口県下関市名神官中別表二宮 忌宮神社
三宮 杜屋神社
南海道
紀伊国日前神宮・国懸神宮和歌山県和歌山市名神官大単立
丹生都比売神社和歌山県伊都郡かつらぎ町名神官大別表
伊太祁曽神社和歌山県和歌山市名神官中別表
淡路国伊弉諾神宮兵庫県淡路市名神官大別表二宮 大和大国魂神社
三宮 伊勢久留麻神社
阿波国八倉比売神社徳島県徳島市名神県社
上一宮大粟神社徳島県名西郡神山町名神郷社
一宮神社徳島県徳島市名神県社
大麻比古神社徳島県鳴門市名神国中別表
讃岐国田村神社香川県高松市名神国中別表二宮 大水上神社
三宮 多和神社
伊予国大山祇神社愛媛県今治市名神国大別表
土佐国土佐神社高知県高知市大社国中別表二宮 小村神社/朝倉神社
西海道
筑前国筥崎宮福岡県福岡市東区名神官大別表
住吉神社福岡県福岡市博多区名神官小別表
筑後国高良大社福岡県久留米市名神国大別表
豊前国宇佐神宮大分県宇佐市名神官大別表勅祭社
豊後国西寒多神社大分県大分市大社国中別表
柞原八幡宮大分県大分市国小別表
肥前国與止日女神社佐賀県佐賀市小社県社
千栗八幡宮佐賀県三養基郡みやき町国小別表
肥後国阿蘇神社熊本県阿蘇市名神官大別表二宮 甲佐神社
三宮 郡浦神社
日向国都農神社宮崎県児湯郡都農町小社国小別表二宮 都萬神社
大隅国鹿児島神宮鹿児島県霧島市大社官大別表二宮 蛭児神社
薩摩国新田神社鹿児島県薩摩川内市国中別表二宮 加紫久利神社
枚聞神社鹿児島県指宿市小社国小別表
多禰国益救神社鹿児島県熊毛郡屋久島町小社県社
壱岐国天手長男神社長崎県壱岐市名神村社二宮 聖母宮
興神社長崎県壱岐市名神村社
対馬国海神神社長崎県対馬市名神国中別表
厳原八幡宮長崎県対馬市県社

参考・引用:ウィキペディア


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